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学校長の部屋

防災講演会

本日の午後、全校生徒・一般参加の方(在校生保護者含む)・伊勢原市消防・伊勢原市役所防災課の参加による防災講演会を実施しました。講師は、群馬大学理工学研究院の片田敏孝教授です。片田先生は、群馬大学広域首都圏防災研究センター長を務めておられます。テーマは、「想定外を生き抜く力~大津波から生き抜いた釜石の子どもたちに学ぶ~」でした。先生は、本校のある地域についての想定される災害から話をしてくださいました。湘南海岸から約13kmくらいですが、津波が相模川を上ってくると近くまで来る可能性は0ではないとのことで、生徒たちもびっくりしていました。

 

DSC02689.JPGところで、皆さんは「釜石の奇跡」という言葉を耳にしたことはありますか。東日本大震災において、死者15,885人、行方不明2,623人の被害があったなか、釜石市14の小学校・中学校の児童生徒約3,000人が保育園児やお年寄りを助けながら懸命に避難したというお話です。

その話が話題となったとき、震災前の釜石市の防災教育に片田先生たちの熱心で継続した働きかけがあったということが取り上げられました。先生は防災研究の見地から、東日本大震災の起こる以前より釜石の小中学校を訪ねていたそうです。この地域は歴史が物語るように、過去に多くの地震が起きており、その周期を考えると近いうちに大きな地震がくると予測されていました。そして、起こることを前提として、どうしたら被害を少なくできるのか、少しでも命が失われないようにできるのかと防災研究者として考えたそうです。最初は、小中学生に「地震がきたらどうする。」と尋ねたそうですが、「逃げないよ。大きな堤防ができたから大丈夫だとおじいちゃんもお父さんも言ってるし、みんな逃げないって言ってるから。」という返事が返ってきて、これではいけないと思ったとのことでした。

DSC02691.JPGそこで、片田先生は釜石で「避難3原則」を伝え続けたそうです。それは、①想定にとらわれるな②最善をつくせ③率先避難者たれ ということです。①については、ハザードマップのそれ以上を警戒するように伝えたそうです。現実として、この東日本大震災では、過去の地震を想定して作られたハザードマップや堤防などを基に大丈夫と思ってしまった地区に大きな被害が出てしまいました。

②は、地震は起こるものとして、そのときに備えできる限りの準備をすること、地震が起きたときには自分の命を守るために最後まで諦めないということです。中学生たちは、地域のお年寄りをDSC02693.JPG運ぶためにリヤカーも用意し、片田先生の指導のもと避難訓練も何度も行っていたそうです。お年寄りは、「自分たちはいいから。」と言っていたそうですが、中学生たちが「この地域で命を落とす人を出したくないんです。」という真剣さに動かされていったそうです。そうして、地域の意識も高まり、お互いの信頼も強まっていったとのことでした。

③は、自分の命を最優先にして、真っ先に避難行動をとるということです。真っ先に逃げることをずるいと思うかもしれないが、「人を助けるためには自分が生きていなければいけない。」ということを大前提にすることです。先生は、非常ベルが鳴ったときのことを例に出し、逃げる人がどれくらいいるかを会場に問いました。みんな不安だけど動かない、これは「正常化の偏見」というそうです。「人は、自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価してしまう。」というものです。不安だけれど、意思決定ができていないだけなので、誰かが動き出すことによって全体が動くようになる。それを率先して自分がやれるようになろうというのです。

この避難3原則は、自然の営みの中で、自然に向き合い生き抜く力を身につけることだと話されました。そして最後に「津波てんでんこ」という話をしてくださいました。これは、私たちが岩手ボランティアへ行った際も何度も耳にした言葉でした。「津波がきたら、みんなてんでばらばらでも逃げなさい。」という先人たちから伝わっている言葉です。しかし、現実には子どもや親、兄弟を捜しに戻り命を落とした人が大勢いるとのことでした。この大震災後に絆という言葉が多く使われましたが、「絆が強いからこそ戻って被害にあってしまうという面も大きい、津波においてはお互いに自分の命は自分で守り、それを信じて自分も逃げることが大切。」と話されていたことが頭に残りました。

片田先生には、本当に貴重なお話を聞かせていただき、感謝いたします。

 

DSC02696.JPG今回の講演を通して、生徒たちが防災意識を高め、「今できることを今やっておく。最善を尽くしておく。」ことを大切にし、家庭でも避難場所などについて話し合いをしてくれることを願っています。